Sunday, November 07, 2021

『五番町夕霧楼』(水上勉:新潮文庫)

京都駅で土産を買い求めていると、「夕子の八つ橋」という商品が並んでいた。その説明書きを読んでみると「水上勉氏の小説、五番町夕霧楼の主人公夕子にちなんで命名しました」と書いてあった。その後、家の本棚を漁っていると、はからずも「五番町夕霧楼」が本棚から転げ落ちてきたので読んでみることにした。夕子は与謝半島の突端にある樽泊に生れ十九になるころに、西陣の遊郭に売られてきた女性である。遊郭の女主人にかわいがられ、西陣の織元の大旦那に水揚げされる。ところが、女主人のしらないところで、同じ郷里の名刹鳳閣寺の僧である青年を楼にあげ通じていた。青年は吃音で同じ寺の学僧に執拗な嫌がらせを受け、また僧としての将来にも絶望し、鳳閣寺と心中するつもりで鳳閣寺を燃やしてしまう。かいがいしく吃音の青年の身の回りのことをしていた母親は事件が発覚すると、列車のデッキから保津川に飛び降り自殺してしまう。そして夕子も樽泊に戻り服毒自殺してしまう。読後感は「救いがない小説だ」と思った。夏目漱石の「坑夫」に出てくる華奢な都会の青年も最後は肉体労働ではなく帳面をつける仕事をあてがわれたではないか。「善人なおもって往生を遂ぐ悪人をや」という言葉があるように、マスコミの完膚なきまでの青年僧やその親族に対する暴露や非難はあまりにも哀れに思った。(免責事項)このブログは一般図書の一部を抜粋要約し、筆者の独断と偏見に基づき改編したものです。このブログで当該分野にご興味をもたれた方は図書館で借りる、ないしは書店にて本をお買い求めになり、全文を精読されることをお薦めします。

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