Friday, May 21, 2021

『遺作・死にたくない!』(川上宗薫著:サンケイ出版)

2004年度版のベスト・エッセイ集を読んでいると、佐藤愛子が川上宗薫を追想する「我が歎き」というエッセイがあった。 一瞬、川上宗薫は今もご存命中なのかと思った。 中学一年生の時、新聞を見ていると川上宗薫氏の『遺作・死にたくない!』という題名の本の広告が眼にとびこんできた。「こんな豊かな社会に死ぬなんてなんて運の悪い人なのだろう。よっぽど死にたくなかったのだろうな」と思った。 川上宗薫は芥川賞候補に五回あがるも受賞できず、官能小説家に転身し、長者番付に名前がのるくらいの流行作家になった。作風は細密で巧緻なディテール描写で、川端康成は川上作品の愛読者だった。 佐藤愛子のエッセイには、宗薫の気の弱さ、臆病さが具体的に綴られている。 銀座を歩いていた時、向こうから五、六人の男がずらりと一列横隊になってやって来ると、「愛子さん、あの連中を見ちゃいけないよ、見るなよ、見るなよ」と囁き、通り過ぎて行くのを待つ。川上氏の夢は巨大犬を飼うことで、理由は「大きな犬を連れて歩いていると、強くなったような気分になるからだ」と言う。 『遺作・死にたくない!』は、川上宗薫が自らのガン体験を綴った壮絶な闘病記である。食堂潰瘍の手術、リンパ節のガン、放射線科のレントゲン、CTスキャン、日蓮宗への傾倒、コバルトと抗がん剤、藁にすがる思いではじめた民間療法など試行錯誤々の日々が淡々と記されています。 最後に川上宗薫はこう述べた。 「理屈なしに生きたいのだ。それは恥も外聞も ない気持ちだった。ガンの苦痛が今後ないという保障があれば、自分のペニスを引き換えにしても、いいとさえ、本気で思った」 (参考文献)『人生の落第坊主』(日本エッセイスト・クラブ編:文芸春秋) (免責事項)  このブログは一般図書の一部を抜粋要約し、筆者の独断と偏見に基づき改編したものです。このブログで当該分野にご興味をもたれた方は図書館で借りる、ないしは書店にて本をお買い求めになり、全文を精読されることをお薦めします。

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