Saturday, April 08, 2023
回想の八木博氏(3)
それから八木さんが東京本社から水島工場へ出張するときに、必ず呼び出しがかかるようになった。私は特に忙しいということもなかったので、ご相伴にあずかることはやぶさかではなかったが「立派な息子さんが2人いるのに何故、俺なんだろう」という疑問が残った。待ち合わせ場所の新大阪のワシントンホテルに行くと「この人が5年前にインド旅行で一緒になった南田充康さんです」と、緑のシャツを着た50がらみの小太りの男性を紹介してくれた。「八木さん久しぶりだねえ。あいかわらず」と南田さんが問いかけると「この前講演したんだが、俺のあとの演者が堺屋太一で」と言い、八木さんが「南田さん。会長とは変わらず」と言うと「この前、会長から葉書が来たら“貴兄”と書いてあって驚いたよ」とお互いの自慢話をすると呵々大笑した。南田さんは中堅家電メーカーの会長に頼りにされていて経営が行き詰まるとしばしばの相談に乗っているらしい。「インド旅行楽しかったね」「土屋さん、サイババのビブーティって本当なんだよ。サイババがいると横の鏡に茶色い砂がだんだん付着してくるんだ」「ほんとかなあ」「あとアガスティアの葉というのもあるんだよ。ヤシの葉に書かれたテキストで現在、未来を解読できるという言い伝えがあって、通訳の人にどれが自分の葉でどんな運命が待ち受けているか占ってもらおうと思ったもんな」「でも、サイババのところでNHKの取材を受けたのはまずかったな。あれが原因で俺はアメリカに飛ばされちゃったんだから」なんでも八木さん一行がサイババのいる寺院に着いた時、NHKがサイババの特集番組を作っていて、八木さんにサイババのビブーティを信じるか否かインタビューしてきたという。そのインタビューが番組に採用され質問にこたえる八木さんの姿がNHKの全国放送で日本の津々浦々に放送された。また運の悪いことにその映像が八木さんの帰国が遅いと苛立っていた上司が見てしまい、その上司の逆鱗に触れて、八木さんの米国子会社への出向が決まったのだという。「八木さんはそれまでは幹部候補生だったんです。それがインド旅行でそこから外れてしまった」八木さんはまずノースカロライナ州のシャーロットに赴任し、3年ほどしてカリフォルニア州のシリコンバレーに転勤した。「そうしたら俺みたいな奴ばっかりいるんだよ。なんじゃこりゃと思ったよ。話もスムーズに通じるし。居心地がよくなって遂には家まで建てちゃった」私がその破天荒さに驚いていると「出る杭は打たれるというけど、引っこ抜かれてとんでもないところに刺さっちゃったな」と言って笑った。
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