Thursday, April 06, 2023

回想の八木博氏(1)

八木博さんと知り合いになったのはメール・マガジンがきっかけだった。シリコンバレーに立ち寄ったことがあり興味があったので、八木さんの発行する「シリコンバレー通信」という週一回発行されるメール・マガジンを購読し貴重な情報源としていた。経済関係の話題に私見を述べたメールを出すと、それに対する見解と「京都の講演会に来ませんか」というお誘いのメールが届いた。「略歴を教えて下さい」というメールが届いたので教えると、八木さんの略歴が返ってきた。東大の大学院で博士号を取得し大手化学会社の米国子会社でMOディスクの開発リーダーだという50歳くらいの人だったので驚いた。京都タワーの下で目印の「AERA」を持ってたたずんでいると、講演会の主催者であるニッセンの社員と八木さんの付き人らしき若者、眼をきょろきょろさせて好奇心旺盛といった感じの眼鏡をかけた八木さんが現れた。しばらく立ち話をしていていると「もう人が来そうにないね」「会場をキャンセルしようか」という会話があり、居酒屋の魚民に入っていった。講演会といっても集まったのはたった4人でしかも講演も中止かと落胆していると、八木さんは居住まいをただし「ここで講演会を始めます」と宣言し、40分程シリコンバレーについて語り始めた。私は4人しか集まらなくても講演会を開いたその誠実さにひかれ「人数じゃなくて中身が大事だという精神がいいですね」と言った。その後、酒が入ると私は「これこれがこういうことでおかしいと思う」とオウム真理教事件にかこつけて東大批判を始めた。お付きの人が私の無礼をたしなめると、八木さんは「いや、この人の言う事にも一理ある」とさえぎった。やがて、懇親会がおひらきになると、私はあれだけ喧々諤々やったのだからこれで終わりだな、と思って挨拶をして大阪のアパートに帰った。

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