昔、NHKFMでクロス・オーバー・イレブンという番組がありました。
ナレーターは津嘉山正種さんで、音楽の間に津嘉山さん独特の暗く低音の押しの強い声(それでいて後で何とも言えない余韻の残る声)で、音楽の合間に何連かの物語を語ってくださるコーナーが楽しみで仕方ありませんでした。
その中で印象に残っている物語をひとつ(なにせ昔聴いた話なので、明瞭には思い出せません。内容も正確ではありませんので、ご勘弁の程を)
(できれば津嘉山さんの声を想起して文章を読んでください)
十数年ぶりにアメリカに住む友人から手紙が届いた。
私の意識は、遠いアメリカに住むアメリカの友人と過ごした過去の記憶をまさぐった。
ドン、ドン、ドン、ドン
朝方、急に戸を叩く音で目を覚まし、何事かと、ドアを開けると、そのアメリカ人は
「ジェネレーター(発電機)の音がうるさくて眠れない。なんとかしてくれ」
と私に訴えた。
鬱蒼たる竹林から間断なく聞こえてくるジージーという音のことだ。私があれは蝉の声で、発電機の音ではない、と説明してもなかなか納得しようとしない。
しばらく押し問答が続いたが、ようやく彼は合点がいったようで、
「こんな雑音を平然と聞いていられる日本人が信じられない」
と言った。
われわれ日本人にとっては夏の風物詩である筈の蝉の声が、アメリカ人である彼の耳にはとても耳障りな雑音としか聞こえないらしいのだ。
それから十年、アメリカから届いた友人の書簡の末尾には、
「この頃、鎌倉の蝉時雨が無性に懐かしく感じられます」
としたためてあった。
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