例によって、深夜の濫読をしていると、『政策形成の日米比較』(小池洋次;中公新書)という本に非常に興味深いことが書いてあった。
(以下、引用)
故山本七平氏の日本人論によれば、人間誰しも組織に帰属することで、自分のアイデンティティー(自己の存在)を確認しようとする。
「帰属意識」がキーワードなのである。日本の社会に地縁共同体も血縁共同体も崩壊し、いま日本人が自分の帰属を確認し、自分の存在に安心するのは会社や役所という共同体になる。
だから、会社や役所の規範が最も重要になる。
常識で考えれば間違いとわかることを真面目な役人やサラリーマンがやってしまうのも、彼らの帰属する共同体が会社や役所しかなく、そしてそこでの規範を守ることが国の法律やモラルを守ることよりも優先するからだ。
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この話を読んでいて、私はある都市銀行マンが老夫婦の預金を流用したことが会社に発覚することを恐れて、その老夫婦を殺害してしまったというエピソードを思い出した。
法律よりも強い強迫観念を抱かせる会社の規範。そこには共同体から離れることが、イコール社会的抹殺という恐ろしいイメージがあったのではないか。
欧米とアジアの人権意識は大きく異なると聞いたことがある。
集団や組織の論理で個人を犠牲にすることやむなしとするアジアと、個人主義の発達した欧米と異なると。
それならば、欧米の役人やサラリーマンが何を規範にして行動しているかといえば、それは、本書によれば、国の憲法であり法律であり、そこには中世から近世に至るまでの市民か築き上げた「個の確立」と「普遍的な価値観」に基づく行動規範によるという。
つまりは、西欧においては、夏目漱石以来、日本人が悩んできた「個人主義」がしっかりと確立しており、日本では死滅した地縁共同体も血縁共同体、宗教共同体が存在し社会のモラル確立に充分生かされている、という訳である。
また、私は次のような記述に目を奪われた。
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(以下、引用)
官民の間に限らず、米国では職業移動が頻繁である。米国の友人たちはいとも簡単に職を替え、またいつも、よりよい職を求めている。
複数の職を持つ人も少なくない。シンクタンクに勤務する友人はこういった。
「むしろ同じポストにいるほうが珍しい。同じポストにいるということは、他の仕事ができないとみなされる。いわば無能の証明なのです。だいたい3年もいれば、その次を考えるのが普通」
年功序列の日本から来ると、まず驚かされるのが、この点である。日本ではまったく逆で、職を替える人は「失格者」とみなされることが多く、中途採用側は「前の職場で何かあったのではないか」と勘繰られるのが落ちである。
一つの組織で上り詰める人が評価される社会が日本であり、組織を渡り歩きながら「会社」ではなく「社会」を上り詰める人が評価されるのが米国である。
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日本でもこういう人たちが増えてきている。
昔は「企業の寿命は三十年」と言われていました。今は「企業の寿命は十年」といいます。
いつまでも古い体質の組織を墨守するだけでは、企業は生き残れません。そのためには、会社は個々人の能力や創造力を駆使して変幻自在な鵺のような存在である必要があると思います。
変幻自在に変わりゆく組織に適応するために、社員も変わらなくてはならない。その適応行動としてさまざまな組織をわたり歩いて行く人も多いと考える。
脳生理学者の養老先生はよく「人間は変わるものだ」という。そして、「変わらない自己がある」なんてまやかしだという。
大人からは我慢を知らない、自己中心的な行動と非難されるが、もしかすれば、激動の失われた十年を自分なりに変わりながら、それでいながら確固たる行動規範を持って生きてきた人なのかもしれない。
経営者としても社員を囲い込むよりも、時代時代に応じて人材を確保していったほうが都合が良いのではないか。終身雇用制度をとるから退職給付の将来給付を見積もらざるをえなくなり、企業業績も落ちる。
またこういった人たちの中から、有能な人は個人で法人格を取得し、会社という枠を超えてさまざまな方面から仕事を受託して報酬を受け取るというフリーランサーも出現している。
ビジネスは米国流になりつつある。雇用関係も同様に、私も含め、こういったJob-Hopperたちにも寛容な世の中になって欲しいものである。
(後日譚)
我々の世代では「スリーストライク・アウト」という企業内の不文律が有り、サラリーマンでも3度しか転職は許されないという原則がありました。世の中、平穏な時代に入りました。私が言うのもなんですが、「ここを戦土と心得て」不遇でも耐えてください。おかしな要求が会社からだされた場合には、労働基準局などしかるべき公的機関に相談し会社と交渉してください。
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