Thursday, January 17, 2008

疲弊する三十代

バブル経済が破綻し平成不況で成果主義、能力主義、目標管理主義というシステムがはびこりだしてから、日本の労働社会に働きながら心の病にかかるという人が着実に増えているという。

本書から引用すると、

「この数年、離職者が増加している。就職氷河期である2001年入社組や2002年入社組の若者たちを追いかけるようにして辞めてゆく勢いに歯止めがかからない。(中略)今年になって2001年入社組の離職率は40%を超え、いまいる社員たちも病気欠勤者も多い」

2006年に社会経済生産性本部が行った「メンタルヘルスの取組みに関する調査」によれば仕事に伴う心の病を抱える社員は増加しており、年代別割合で三十代が61%と突出しており、2年前が49%、4年前が42%でしたからその伸びは異様といえる。

そのような平成能力主義の不協和音を簡単にならべてみました。

・都市銀行で5年間働いた為替ディーラー、外資系金融機関に4000万円でスカウトされ転職したが、その後9.11事件が勃発。社内アナウンスで転職先の金融機関の日本市場撤退をしらされその場で解雇

・外資系証券会社。誰も自分のノウハウを教えない。「どうやったら契約できるか教えてください」と新入社員が訊きにくるが「そんなものがあったらぼくも知りたい」と答えてお茶を濁す。部長は顧客のニーズを喚起しアプローチを工夫すればいくらでも契約はとれる、と言うが「自分のアタマで考えろ」といってヒントさえ示さない

・ディナー・サービスを提供している女性ばかりの会社。5人のうち4人は35歳から52歳の年長者。29歳の若手社員があたらしい社員に対して、さまざまなアドバイスをすると「年長者をさしおいて勝手な判断をしてもらっては困る」という事業部長からのクレーム。あたらしい社員は続々と離職。挙句のはては4人が同時に夏休みを取得。29歳の社員は10日間のあいだ徹夜を含めて毎日残業。体力の限界を感じ退職。

・都市銀行。支店長が副支店長に対して新人の教育を命じる。「ウチには余分な人員がずいぶんいる」と辛辣な言葉を受ける。副支店長は、そのはけ口として入社まもない総合職の女子社員に教育と称して強迫し性的関係におよぶ。

・大手電機メーカー。28歳のシステムエンジニア。経理事務のソフトウェアの取り扱いマニュアルを作成。完成させれば高い評価が得られるため180時間を超える時間外労働をおこなう。自殺する3日前に急性ストレス反応が出ていた。
後からの調査によると、頼まれたら断れない性格で昼間は他人の仕事を自分の仕事は夜やっていたという。

・ある分野を開拓して業績を上げた者が異動。業務引き継ぎ自体を拒み、折衝方法や技術を後輩に教えない。自分の業績向上とは無縁であるし、プラス評価を受ける者が増えては困るため、自分のした苦労を後輩にも強いる。

・電話のオペレーター。携帯電話の「お客さま相談室」を担当。派遣社員から正社員になったが異端視される。女性の多い職場で、なにかといえば学歴が話題になったり、同門同士での集まりの知らせが露骨にあって退社。派遣社員の方がいごこちがよいので再び派遣社員に戻る。

・ある会社をクビになった技術者、派遣社員になる。すると派遣会社が提示した仕事はその技術者が前いた会社で提案したもの。請け負って派遣先の会社にいって、自分の提案した仕事を自分をクビにした上司に伝授する。

・ある会社をクビになった技術者が派遣社員となりグループをつくる。ある研究所が有望視されているが製品化できない仕事を請負い、研究所のチームリーダーができなかった製品化を可能にしてしまう。


このような事例から著者はこう結論づけます。

成果主義に代表されるように人事考課制度をみる限り弊害だけが目立つのです。どんな弊害かといえば、なにより倒れる人の増加でしょうし、それに伴う組織体の危うさです。

最後に、「読売新聞」に載った自死した教職者の配偶者の手記を引用させていただきます。

2003年7月3日の夜十一時ごろ、電話で話したままあなたが帰って来なくなってから一年がたとうとしています。この間、私は何もわからずに、その時その時を必死でたくさんのことを行動してきました。でも家の中は一年前そのままで、あなたがいつ戻ってきても仕事に出かけられますよ。
(中略)あなたの最期の地は、冬は花も水も凍てつく地で、行く度に寂しい思いをしましたが、春はスミレ、山桜、藤・・・・・・と野の花が次々と咲いて、あなたはそっと見守ってくれています。自然だけが、私達の慰みです。

(出典:『職場はなぜ壊れるのか』(荒井千暁著:ちくま新書)


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