Wednesday, April 28, 2010

『佃島ふたり書房』(出久根達郎著:講談社文庫)

 第108回、1992年上半期(平成4年)直木賞受賞作。


 直木賞は菊池寛氏によって昭和十年制定され、大正十二年に創刊された雑誌「文藝春秋」に亡くなる昭和九年まで同誌に精力的に執筆された直木三十五氏をしのんで、大衆作家の登竜門として年二回もうけられました。


私は文学とは、純文学が「その時代の人々の息吹や情操を適切にとらえたもの」ならば、大衆文学は「近代化にともない滅びゆく風情や人情をとらえて写実した」ものにも与えられてしかるものではないかと思っています。


出久根氏は既に「文藝春秋」のコラム欄の常連ということで「知ってる人は知ってるよ」という反応がかえってきそうなのでご紹介しなかったのですが、この作品は東京築地の魚市場を描いた森田誠吾氏の「魚河岸ものがたり」や、大阪九条の商店街を描いた宮本輝氏の「夢見通りの人々」を彷彿とさせる「庶民派の下町文学」としてながく私のこころに残りそうなので紹介させていただきます。


ところは東京佃島。豊臣方の侍ながら徳川家康につき従い、その功により埋め立てた島と自由な漁業権を獲得した三百年の歴史をもつ漁師町。佃新橋開橋と市町村合併をひきかえに消えゆく佃島の古本屋を継ぐ決意をした高校をでたばかりの少女澄子。古本屋の仲介業をいとなむ梶田郡司が駿河台の古書会館でのセリ市につれて行きながら四十五年にわたる古本屋人生を回想します。


生年月日が同じ六司とともに「ふたり書房」を営むうちに、書店の小僧たちがだれにも相手にしようともしない鼻梁が溶けた遊女で社会主義の本の編集責任者である女にひかれた郡司。損得ぬきで「大逆事件」であげられる女の心意気にひかれ社会主義の本を買い漁る郡司。やがて郡司は六司に店をまかせ満州に。明治末期から昭和三十六年まで、ふるきよき下町の風情をしのぶことのできる傑作。



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