Monday, February 02, 2009

『古書彷徨』(出久根達郎著:中公文庫)

妻と二人で気息奄々、長年五坪ほどの古本屋を営んできた著者が綴る古本にまつわる珠玉的掌編集。


殿さまの上屋敷の土蔵にいた紙魚(しみ)という銀白色に光る虫に自らの人生を重ね合わす「紙魚たりし」、学者まがいの膨大な蔵書を売り払った後に家もろとも焼死した老人。死ぬまで女房をだまして古本を買いつづけた或る亭主。


「探求書承り候。必ず納品仕り候」との貼り紙に、子供の頃みたシンデレラの絵本を求める良家のお嬢様、数年経つと子供が三人世帯じみてくる。同じ古書店で験を担いで老人がシメで飾ってある全集。少女が歴史物を頼んだとみるや彼女と知り合うために必死に探しだしたるところ相手は少女にあらず警察官。



「志のためなら身代を売らねえ」という気風の良さで長年古本業界にたずさわってきた、直木賞受賞作家、出久根達郎氏の古書にまつわる死の薫りただよう神話的な話。とにかく奇妙で面白く不思議な作品です。



(出典:『古書彷徨』(出久根達郎著:中公文庫)