Saturday, June 05, 2021

『文壇』(野坂昭如:文藝春秋)

かつて永井荷風が「面白いものを読みたければ、俺の日記をそのまま小説にすればいい」と言ったそうだが、本編はあたかも野坂氏が無名の頃から流行作家になるまでの詳細で刻銘な記録を読んでいるかの印象を受けた作品。 色川大吉の授賞式にきた、文壇の大御所丹羽文雄、舟橋聖一を筆頭とする綺羅星のように集まった作家たち。それを取り巻く多士済々の出版業界やテレビの関係者。さまざまなバーに夜ごと出没し、お互い酒を痛飲しながら文学談議にあけくれる、そんな文学関係者の生態が活写されています。 雑文書きの野坂に中央公論社から「エロ事師」という題名で小説を書いてくれないかという依頼がくる。下品な題名に憤慨しつつも、何も浮かばないし、浮かんでも空々しい内容。何とか仕上がった「エロ事師」が「文芸」で吉行淳之介が、「新潮」で三島由紀夫が見開き二頁の左一頁をさいて賞められた。 作家の旺盛な文章力は自分にはない、と苦悩した野坂氏であるが「アメリカひじき」「火垂の墓」(古語で火垂る、火が垂れる、つまり空襲、すぐ「墓」とつづいた)で直木賞を受賞し、野坂氏は文壇の檜舞台に駆け上がることとなる。 (免責事項)  このブログは一般図書の一部を抜粋要約し、筆者の独断と偏見に基づき改編したものです。このブログで当該分野にご興味をもたれた方は図書館で借りる、ないしは書店にて本をお買い求めになり、全文を精読されることをお薦めします。