Sunday, September 21, 2008

「私のマルクス」(佐藤優著:文藝春秋)

二〇〇一年に発生した9.11.同時多発テロ。その翌年の三月、アメリカ主導による対イラク戦争が開始される。


その頃、国民のテロへの報復戦争に関心が集中する中、その注意を逸らすため、いわば煙幕として国内で勃発した「田中真紀子騒動と鈴木宗男バッシング」。国民のスケープ・ゴートとされた鈴木宗男代議士を孤軍奮闘護る佐藤優。ノンキャリアながら鋭い視点と深遠な知識によって「外務省のラスプーチン」と呼ばれ、外務省の一隅に隠然たる存在感をしめしていた異色官僚。


結局、二〇〇一年五月、背任容疑及び偽計業務妨害容疑で逮捕され東京拘置所に収監されるのが、獄中、その逮捕されるまでの外務省の経緯を告発した「国家の罠」を上梓し一億総国民の鈴木宗男バッシングに一矢報いた投じたラスプーチン。

その官僚としてはやや異例の経歴の人物が語る自己形成史。


一九六〇年、富士銀行の電気技師の父と、沖縄の久米島で生まれその戦争体験から反戦平和の社会党の熱心な支持者であった母の間に生まれた佐藤優氏。


一九七五年、米ソ冷戦のいわゆる東西冷戦の緊張高まる中、東欧諸国及びソ連を一人旅し社会主義ないしは共産主義諸国のイデオロギーに関心を持つ。浦和高校で受験一辺倒の教育になじむことが出来ず、倫理社会の堀江六郎氏との出会いによって、マルクス主義とキリスト教の相克を読み解くために<無神論研究とマルクス主義>というテーマを大学で勉強しようとする。それならば、と自由な研究を許可する同志社大学神学部を紹介され京都で勉強することを決意する。


聖書神学、歴史神学、組織神学、実践神学を学びながら、神学部自治会のリーダー的な存在となり学友会自治会と連携しながら、学外の民青同盟や統一教会と血みどろの学生闘争を繰り広げ、さまざまな民族問題、人権問題を肌で感じとる。また学問の世界では、神の秩序によって支配される「神の王国」とエゴイズムによって形成される「この世の王国」を歴史的に検証し<信仰とは何か><救済とは何か>ということについての各人の言説を読み比べることに生きる歓びを見出す 。


 ポスト全共闘世代と言われる世代の群像を浮かび上がらせながら、最後まで張りつめた筆調が弛緩することがない。私は「どこの大学にはるか」よりも「大学で何を学ぶか」が大切だと教えられてきましたので、佐藤優氏の一途な学生生活には感じ入るものがありました。「「大学生かくあるべし」という事を綴った読み応えのある一冊。



(出典:「私のマルクス」(佐藤優著:文藝春秋))