Saturday, December 09, 2006

(書評)ヒルズ黙示録・最終章(大鹿靖明;朝日新書)Part2

この本を読んで考えさせられたのは、やはり「いわゆる事前規制型社会から事後チェック型社会の移行」に伴う弊害である。

金融ビックバン以降、国際的な規制緩和の動きの中で、政府の働きは事前に社会の影響を考慮した業界指導から、資本市場の自由にゆだね事後のチェックに当たるのみという夜警国家的な働きに変化した。

一連の保有する優良不動産の保有益に眼をつけた村上ファンドが阪神株を買い漁り、阪急と合併するまでの経緯を読んでいたが、その前に京阪が阪神に統合案を持ち込んでいたという事実に驚かされた。

京阪電気鉄道は大阪のビジネス街、淀屋橋から京都をつなぐ私鉄で阪神はこの統合案で、京都から神戸までの路線を手に入れることも出来た筈である。

さらに、この統合案に大阪の繁華街ミナミのある阿倍野から奈良、阿倍野から名古屋に路線を持つ近畿日本鉄道まで乗り出して来たというのだから興味深い。

もし、この三角合併が成就していれば、名古屋―京都―大阪―神戸を結ぶ一大私鉄連合が形成され、JR西日本の一人勝ちの様相を呈する関西の鉄道地図に一石を投ずることが出来た筈である。

阪急が阪神との合併に乗り気になったのは、不動産開発に失敗した阪急の財務内容の改善を阪神の優良資産が埋めてくれるのを期待したからに他ならない。いわば、企業の都合による合併であり、顧客のメリットを考えた合併ではない。

マスコミの報道姿勢にも問題があり、関西の経済事情に精通していない放送局の制作によるものか、阪神には阪急との合併以外に、関西私鉄連合という素晴らしいオプションが存在することをあまり報道していなかったように思う。

結局、強烈なメディアの報道効果および村上ファンドの強制捜査により、いそいそと阪神は阪急との統合を選んでしまい、顧客よりも企業利益を優先した合併が成立してしまった。

もはや、少子高齢化のすすむ日本にはこれまで培った経営資源を効率的に活用するしかない。

このような無駄な合併は慎むべきではないだろうか。


(後日譚)
既に阪急、阪神、京阪、近鉄、大阪地下鉄は相互乗り入れして顧客の利便性を考えた関西私鉄鉄道網は完成されております。

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