Sunday, December 10, 2006

(書評)『グーグル Google』(文春新書)

まず語られるのは、Googleの登場による、既存のメディアのビジネスモデルの構造革命である。

インターネット・ユーザーはインターネットを始めるにあったてまず検索エンジンを使う。

そして最もユーザーが検索しやすいエンジンを選択する。検索エンジンはユーザーが入力したキーワードに適した広告を検索結果の間に挿入し配信する。ユーザは検索キーワードにちかい商品の広告を眼にし、ついでにその広告をクリックする。

つまりネットの方が費用対効果が高いのである。

この事実が判明するにつれ、広告代理店はインターネットに広告を配信し、相対的にテレビなどのメディアに広告収入が流れなくなる。新聞などのメディアも、販売店代理店の主な収入源である折り込みチラシは減少し存亡の危機に立っている。

また、Googleは中小零細企業にも優しい。

京浜島で駐車場を経営する山崎夫婦は、敷地はあるが駐車場の存在を知らせることができないため、集客に苦労していた。

そこでGoogleのキーワード入札に参加し、「羽田 駐車場」「羽田空港 駐車場」「羽田空港 民間駐車場」という検索キーワードを落札し、このキーワードで検索してきたユーザーに対して広告を掲載する権利を取得した。

するとまさに適材適所、この広告は海外旅行に行く羽田空港ちかくで2・3日車を駐車させたいユーザーにヒットし、山崎夫妻は申し込みを断らなければならない程の需要を得た。

興味深いのは、キーワード(言語)にオークション形式で値段がつき始めたことである。インターネットにおけるキーワードはあらたな商品となった。


また、佐々木氏が警鐘を鳴らしていたのは、Googleのヴァーチャル社会での権力が増せば増すほど、やがてGoogleは公的な力を持ち、政府の監視社会の強化に力を貸すのではないかという危惧である。

最後に、佐々木氏は小説『ユービック』を引用し、ヴァーチャル世界とリアルな世界との区分が明確でなくなる例を紹介している。

宇宙船の爆発をきっかけに時間退行現象を起こした世界に引きずり込まれた人々。退化現象を矯正する特効薬「ユービック」というスプレー缶のみ。そして爆死したはずのボスからのメッセージがさまざまな場所に届く。スーパーで商品を手に取れば、そのラベルにボスのメッセージが書かれ、店で釣銭を受け取れば、その硬貨にボスの肖像が現れる。やがて死んだのはボスなのか、自分たちが冥界を漂っているのかのリアリティがわからなくなっていく・・・・・

ありとあらゆるところに届くボスのメッセージは神の遍在(ユビキタス)を奇想させ、見えない力に支配される主人公の姿は「監視するユビキタス」を象徴している。

こんな世界にならなければいいが。一抹の不安を覚えた。

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