Sunday, November 19, 2006

驟雨の時

夕暮れ雨が降ってきた。

雨が降ると不思議なことに、遠く海から離れた高台の家に海峡を行き交う汽船の鋭く物悲げな音色がしきりと聞こえてくるのだ。

私は読書を中断し眼鏡を外すと、汽笛の音にさそわれるように、白いカーテンを開けてヴェランダに出てみた。すると、さっきまで見えていた淡路島の島影はかき消え、雨に煙る海峡の中にうかぶ汽船の明かりが幾つもほのかにうかびあがっているのが見えた。

急な夕立に海辺の市街地は灰色にくすんだ。

屋根に打ちつける雨音が次第に強くなり、やがて私の顔面までもくちゃくちゃに濡らすようになってきたので、いったん部屋の中に戻り、出窓をのぞいてみると、隣家の柳の枝も突然の夕立になす術もなく枝垂れていた。

私は子供の頃、汽笛の音が好きだった。

汽笛の音を聞くといつも屈強な海の男たちが「おーい、俺たちもやっているぞー。お前たちも元気でやっているかー」というエールを送ってくれているように思われたのである。
たとえその音が昼間に鳴ろうと、夜中に鳴ろうと、わずらわしく聞こえたことは一度もない。それは船男の勇敢な息吹をつたえ、繊細で虚弱な私のこころを鼓舞する合図であったとともに、私と船男を結ぶ心地よいコミュニケーションであったのだ。

そして今ではその音に郷愁を感じる。

私は幼年時代、日本有数の漁港のある尾道で暮らしたことがある。その時の淡い記憶が蘇えってくるのを感じた。

1 comment:

鈴村修 said...

文章は、非常に巧い。
ただ、個性が感じられない。

芥川賞などをねらっても、
芥川賞で食べていけるわけではありません。
そもそも、芥川賞は出版されている作家の
作品が審査対象です。

まずは、どこかの新人賞から始めたらどうか。
群像でも新潮でも文芸春秋でも、どこでもいい。
ジャンルを選ばなければ、
なにも純文学に限定する必要はない。
今はミステリーやライトノベルが売れる。

いろいろ書いてみるといい。