Sunday, November 19, 2006

驟雨の時

 カミツ君という私と同じ幼稚園に通う子供たちと遊び始めたのは、いつの頃からだっただろうか。

彼らは道路に面した入り口の扉を開けて、玉砂利の敷かれた石畳を走り抜けて、二つ目の扉から顔をのぞかせて、
「おばちゃん、タダシ君いる?」
と、尋ねてくるのだ。
おそらく、おばあさんがカミツ君たちと遊ぶなと言うのも、カミツ君が建て付けの悪い長屋に住んでいることから来る偏見だったのだろう。

カミツ君たちとはよくうちの庭で穴掘りをしてコガネムシの幼虫を捕ったり、竹林の中のミノムシを捕って遊んだ。よく、さわ蟹を捕りにカミツ君一党とお堀のちかくまで遠征することもあった。そして、時々カミツ君の家に招かれることもあった。

その日はあいにく長屋の入り口にいる毛の白い大きな凶暴な犬が暴れくるっており、私はその入り口を通ることが出来なかった。
カミツ君は、
「いまだ!! チャンスだ!!」
としきりに私をけしかけてくれるのだが、私はその犬が恐ろしくて中に入ることが出来ない。するとカミツ君がちかくに落ちていたボロ切れの布をスペインの闘牛士よろしく縦横無尽にふりまわし、犬がひるんでいる間に奥にいけと言った。

私は時代劇の豪傑が敵の追っ手を一手に引き受けて、相棒を逃がしてやるシーンを想像し、彼の好意に感謝しつつ犬のかたわらを走り抜けた。

カミツ君の家は長屋の一番端っこにあった。屋外の物干し竿に絵柄入りのTシャツやシーツなど雑多なものが干されていた。入り口には三輪車が二台、それぞればらばらに放置されていた。

カミツ君は四人兄弟の長男で、家にあげてもらうと三人の弟や妹が醤油や泥んこ遊びで汚れたTシャツを着て元気に走りまわっていた。薄暗い部屋の中のテレビが純色のアニメーションを映し出していた。

昼食時になり帰ろうとすると、カミツ君の弟や妹が手を引っ張って、
「ウチで食べてきなよ」
というので、自分より幼い子供に甘えられるというのも初めての経験で嬉しかったので、その好意に甘えることにした。

大きなメロンパンにかぶりついていると、昼時なのに帰ってこない事を心配して様子を見にきた母にその光景を見つかった。
母は、
「まあ、まあ、大きいパンを食べていること」
と喜ぶと、カミツ君のお母さんに、
「いいんですか?昼食までご馳走になって」
とお礼を言いと、カミツ君のお母さんも、
「いいんですよ。気にしないで下さい」
といって世間話を始めた。

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