Friday, May 04, 2007

赫奕たる日蝕・三島由紀夫と石原慎太郎

三島由紀夫と石原慎太郎の出会いから離別までを断片的に記述します。

(以下、『国家なる幻影』(上)(下)石原慎太郎著:新潮文庫から抜粋引用)

1.
「偉人は体が大きい」という思い込みがあった石原氏はトレンチコート姿の三島氏が思いのほか小柄(158cm)であったのに驚き、初対面にもかかわらず「僕、三島さんてもっと大男なのかと思っていましたよ」と言ってしまう。三島由紀夫、何とも言えない顔で「いやあ、わっはっはっ」。笑い飛ばす。

文藝春秋社の屋上で二人そろってグラビア写真を撮影する。

石原氏、手摺が煤煙でひどく汚れていることを注意すると、三島氏かまわずに大きく身をのりだす。

撮影後、汚れはてた手袋を叩きながら「いやあ、わっはっはっ」。「それよりも君この写真のタイトルは何にするかね。僕は決めてきたんだよ、新旧横紙破り。どうだい」。三島氏、呵々大笑。文春のカメラマン、その日の三島氏の姿を見て、「何だか三島さん、えらく気負っていたなあ」

三島由紀夫の最後の大河小説「豊穣の海」を苦労して読み終えた石原氏は思わず涙する。

その作品のあまりに無残な退屈さと三島氏の作家としての内面の衰弱のため。

最も無残なのは、若かりし頃の自分の作品を模倣して書いているところだと語り、「ああ、あの三島さんにしてこんなに衰弱して死んでしまったのか」と嘆息する。この評価に天国にいる三島由紀夫は「いやあ、わっはっはっ」と、笑い飛ばすことが出来るだろうか。

2.
ある日、弟の裕次郎氏が映画をみて帰ってきて、石原慎太郎氏に「三島由紀夫が映画に出てたぜ」と言ったところ、慎太郎氏はそのことにたいへんな衝撃を受けた。当時は、文士というものが映画などというものに出演すること自体異例な出来事だったらしい。

それを機に石原氏は三島由紀夫の熱心な読者になるわけですが、石原氏は三島氏のそういう前衛的な部分に惹かれたのかもしれません。

この現象を現代に置き換えてみると、かぶりものを着た坂本龍一氏がダウンタウンの番組に出演し、ダウンタウンと水中で棒を振り回して殴りあう映像と同じくらい衝撃度があるでしょう。

3.
三島由紀夫と石原慎太郎を語る上で欠かせない挿話は、病床に伏せる石原氏宛に送った三島氏の一通の手紙である。

ベトナムから帰国し重篤な肝炎に倒れた石原氏は三島氏から懇篤な一通の手紙を受け取る。
その手紙には

「自分も以前に潮騒の取材で同じ病気にかかったが、実に嫌な病気だった。君の今の心中は察するに余りあるが、一旦病を得たなら敢えてこれを折角の好機と達観し、ゆっくり天下のことを考えるがいい」

とあった。

この一通の手紙が石原氏の心を平明に開いてゆき、やがて政治の世界に飛び込むことを決意させる。石原慎太郎氏は昭和四十三年参議院全国区で最高得票を獲得し、国会議員として道を歩み始める。

4.
皮肉なことに石原氏の政界入りによって、石原氏と三島氏との関係に亀裂が入ってしまうこととなる。後に石原氏はこの間の三島氏との関係を「おもちゃの奪い合い」のような関係になってしまったと回想しているが、三島氏の嫉妬はやがて三島氏を過激で尖鋭化した政治活動に向かわせることとなる。

毎日新聞上に「石原慎太郎への公開状」なる文章を掲載し、自民党の禄をはむ人間であれば批判など一切すべきではない、それは武士道にもとる。本気で批判するなら諫死の切腹をせよなどという、毎日新聞のデスクも頭を抱えざるをえないような内容の論旨を展開しだした。

さらに、保利官房長官が今日出海氏、三島氏、石原氏の三氏を呼んで雑談をしたところ、三島氏は政府が自衛隊を使っての反クーデターの詳細な計画を滔々と語りだし、保利官房長官を当惑させたりした。今氏に「君、三島君はどこまで本気なのかね」と問われた石原氏は「これから書くつもりの小説のプロットじゃないですかね」と答えた。

※ 「赫奕たる逆光」(野坂昭如)、「三島由紀夫の日蝕」(石原慎太郎)を入手されたい方はAmazon.comか紀伊国屋書店の古書のコーナーで入手して下さい。

第66回 7,000人来訪記念 文化相違の「笑い」と、今まで書いたものの棚卸
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第67回 「無名であるといふこと」 郷学研究会の講義(上)
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第68回 「乾ききった社会」 郷学研究会の講義(中)
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