Friday, August 10, 2007

哲学者ジョージ・ソロスとクォンタムファンド ~ 「再帰性理論」 ~ (後)

哲学者ジョージ・ソロスの挫折

 ソロス氏は、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスを卒業後、装身具メーカーに見習社員として入社、その後、シティの金融街に転じるも会計係、金の裁定相場を扱う部署、本社の事務要員を転々とし、業績もパッとしなかったソロス氏はニューヨークのウオール街に活躍の場を移します。

ウォール街で国際裁定取引を任されたソロス氏は、欧州向けの石油関連株の販売で頭角をあらわし、やがて外国証券アナリストとして絶頂期を迎えました。

 しかしながら、ニューヨークでの幸福な時期も長続きせず、東京海上のADR証券の販売時期の認識をめぐって役員と対立し、やがて仕事の裁量権を縮小されたソロス氏は、3年もの間ビジネスそっちのけで、ロンドン大学時代に齧った認識哲学の学位論文の執筆に没頭してしまったそうです。

 その後、会社を移籍し本来のビジネスの世界に戻ってきたソロス氏は小さなアメリカ株の投資ファンドの運用を始め、軌道にのりはじめた7年後にクォンタムファンドという自ら独立した会社でファンドの運用を始めることになります。


ソロス氏の哲学理論
 
以前、価値研究家のH氏とお話したところ、「株式相場とは結局、人々の意識の塊の総和を数値化したものではないか」という意見で一致しました。

人間が、風説やデマ、人々の根拠のない期待等の誤った情報に基づいて投資をおこなえば、株式市場は「歪んだ意識の流れの塊」を形成し、競馬の馬券と同じような博打にちかい、不健全なものとなります。

また、堀江貴文氏のように突然あらわれた時代の寵児が、あたかも名伯楽のように崇められ、氏が思いつきで発言したことがマスコミ等の媒体を通じ大衆に伝えられ、その影響が市場に甚大な影響を与えるとすれば、これ以上危険なものはありません。


(日本の株式相場はその意味で欧米に比べまだ未成熟ではないか、という処でもH氏と意見が一致しました)

一方、株式投資をおこなうものがみな、正しい情報を与えられ、企業業績をきちんと読みこなして投資をおこなえば、株式相場は「企業活動を適切に反映した意識の塊」となり、適切なところに資金が流れ、不適切なところの水は枯れる、ことになります。

しかしながら、人間、神でもない限り完全な情報を与えられ、それに基づいて適切な投資が出来るとは考えられません。それが、投資するもの全員が、となれば、なおさら難しいことです。

そういった環境の中、ソロス氏の投資哲学の根幹をなすのは「私は誤りを犯しやすい」という認識である。

彼は自らの投資スタンスを過信しない。彼は、常に自らのスタンスが間違えているのではないか、という不安を持ちつづけているがゆえに、市場の状況に敏感でいられ、かつ自らの投資判断のミスを他人よりもいち早く気が付くことができるといいます。

 そして、ソロス哲学のもうひとつの一翼を担うのが「再帰性」という概念です。

この「再帰性」の理論を筆者なりの見解で述べさせていただければ、「再帰性」とはいわば「木霊(反響:エコー)」のようなものではないかと考えました。

人は山頂に登って並びゆく山脈に向かって「ヤッホー」と叫ぶ。しかしながら、跳ね返ってくるその声はその人の発した声には違いないが、山々の反響によって微妙にもとの音とは異なる。

つまり、現実社会が変わることによって、人々は自らの認識する世界観を変えます。与えられた原始情報に何らかの偏りが加わり、原始情報がさまざまなメディアの意図によって歪められる。こういった現象が三重、四重になってかえって実像を覆い隠してしまう。こういった現象によって、「事実」と「人々が認識する事実」とは徐々に乖離してゆくのではないかと思います。

「人々が認識している現実は必ずしも、本当の現実とは一致していない」

また人間には、

「人々は自分が認識している現実に固執し続ける癖があり、そのため現実に起こっている事象に対して素直に対応できない」

という性質もあるようです。

このように「人々が認識している現実」と「現実」とのあいだに大きな乖離が生じてしまうことになり、日本のバブル崩壊の時ように、その僅かな株式相場に関する人々の認識の時間差を利用して、大きな利潤を得たのが、ジョージ・ソロス率いるクォンタム・ファンドであったといえます。

かつての「土地神話」のように、万人が万人当たり前だと思っている理論的枠組み(=パラダイム)や前提、を疑い、時代の変化を読み取る臭覚が、ジョージ・ソロス氏は格段に優れていたといえましょう。
(2001年6月9日記)


(後日譚) 
最近の企業の投資ファンドの目論見書をみると、従来の債権・株式だけでなく、コモディテイという商品も組み入れられていました。

コモディティとは、商品相場らしく鉱物資源や、大豆、砂糖、綿花等、個々の商品の需給関係に基づいて相場が形成されていくものらしいのですが、そんな沢山の指標があるなかで一般の人々が適切な情報を得ることができ、適切な投資ができうるのでしょうか?

また、地球温暖化に伴い、途上国の二酸化炭素排出する権利を、先進国が買いとるというビジネスが国際的に起こりつつあるそうです。

株式相場をする人はいろいろな手段で24時間、あらゆる国際情報を収集し、吟味しなければなりません。

私は証券投資をしません。そういった時間が無駄のように感じるからです。

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